あいさつ不要論
挨拶とか笑顔ってなんかダサい
ぼくは友達が少ない。
根暗だから週刊ジャンプも読まないし、タイトルから挨拶とか笑顔がダサいって言ってしまう。だから、友達が少ない。
そんなぼくの、葛藤の話だ。
そんなぼくはつい先日、
飲みに行った友達にこう言われた。
「○○(ぼく)は話しかけにくいよね。とりあえず初見の人には猫かぶって、ニコニコして、挨拶したりすればいいのに」って。
でも、ぼくにとって、ニコニコして、挨拶することは高校物理より難しいことなのだ。
ぼくは自分から挨拶をしたり、笑顔を作れない節がある。あとで語るけど、やってこなかったから。
だから次の日、やってみることにした。
行きつけの美容院の鏡の前で、ニコニコ(ニヤニヤ)してみたのである。これは決して、挨拶や笑顔が大切だと痛感したからではない。美容師のお姉さんとべらぼうに仲良くなりたかったからだ。
「長さこれぐらいですか?」
「いい感じです」
「頭流しますね」
「お願いします」
以外の会話が繰り広げられることはなかったけど。
…なんだこの義務的な会話。全く打ち解けられないではないか。これでは牧場物語の恋人と会話しているほうがドキドキする。
その後、お姉さんの薬指にリングを見つけてからはとうとう口角を上げることはできなかった。前までそんなん付けてなかったやん。
大敗である。5回コールド負けである。
メロスとぼくは激怒した。責任者はどこか。
笑顔とかそういうのさ
そもそもだ。
ぼくは確かに挨拶も笑顔もぎこちないし、終礼の挨拶もスカして真面目にしたことなんてない。卒アルの笑顔はどれも引きつっている。
けれども、そんなことしなくてもぼくには心を許せる友達が(少ないけど)いる。本当はそんなものなくたって人と人は通じ合えるはずだ。週刊ジャンプを一度も手にしたことがない、勇気も友情も知らない根暗が今必死にそう言っている。
ぼくは、来週から新社会人だ。おそらく、挨拶も笑顔もできないから入社式でスピード退社するだろう。さようなら社会。
でもつまんない本心を言うと、ぼくだって心から挨拶や笑顔を交わしたい。写真には写らない美しさもあるけど、写真にも美しく写りたい。働いてたくさんお金も欲しい。そして宮崎あおいと結婚する。
そうなるともうやるしかないんだ。「週刊ジャンプなんか一生手にとってやらねえ、挨拶も笑顔もいらねえ卍」という自分はもちろん大切だ。ナデナデしてチューしてあげよう。
でも、もう一面、自分がいたらもっと生きやすいはずだ。
あの有名な太陽の塔も2つ顔があるし。
まあやっても失敗するんですけど
行動力おばけことぼくは、早速やってみた。
何をって、挨拶を。
美容師のお姉さんへ失恋してはや2日、
ぼくは最強になるのだ。
具体的に何をしたかというと、
夜、住んでいるマンションのエントランスに繰り出し、片っ端(※プレイ難易度はイージー、ヤンキーと美女は除く)から挨拶をした。
さながら校門前に立つ生徒指導の先生である。
「こ、こんばんはぁ」(震度4)
早速無視された。おばちゃんに。
ファーストチャレンジで無視すんなや!!!!人生ビッタビタのビターやんけ!!もう帰ってお風呂入って歯磨きして寝る!
またもやメロスとぼくは激怒した。
でもこれはぼくの声が震えて小さすぎたせいだ。顔も笑えてなかった。
ちゃんと言ったつもりだったけど、きっと世間には『大きめのハエが近くで飛んでるぐらいのしょうもない音』にしか聞こえてないんだろう。
『尖り方が分からず社会批判風ポエムを80人のフォロワーに向けてしていた当時高3のぼくのツイート』と同じ状況だったのだ。
これはいくない。
そうこうしながら数を重ねるうちに、疲れてそうなサラリーマンも、主婦のおばちゃんも、若い男の子も、挨拶をしたらなんだかんだ返してくれた。
じゅうぶんである。やればできるじゃん。
まだまだぎこちないけど。
このくらいにして帰ろうと思ったとき、エレベーターで青年が気さくに声をかけてきた。
すぐにぼくはこの人が、
ぼくのことを友達だと勘違いしてることに気がついた。(すぐわかる、友達少ないし)
青年も遅れて気づいた。
「マチガエタ…マチガエタ...マチガエタ…」
と恥ずかしそうに、さながら壊れた知育玩具のように繰り返す青年に、ぼくは落ち着いてニコニコしながらこう言ったのである。
「こんばんは」
挨拶ってステキ。